その出身は世界最大の石油埋蔵国である社会主義独裁国家の南米 ベネズエラ です。
バンベルク交響楽団が2004年にスタートした 「グスタフ・マーラー国際指揮コンクール」
マーラーの孫であるマリーナ・マーラーを名誉審査員に迎えて3年毎に開かれていますが、
その栄えある第1回の優勝者が当時23歳の若さであった ドゥダメルその人でした。
彼はこの優勝で一躍脚光を浴びる存在となり、目覚ましい活躍のスタートを切ったのでした。
そんな彼と同時に話題となったのが、若き才能を生み出したベネズエラ国をあげた音楽教育システムです。
ベネズエラ・ボリバル共和国は、南アメリカ北部に位置するスペイン語圏の連邦共和制社会主義国家です。
コロンビアと共に北アンデスの国ですが、自らをカリブ海世界の一員であると捉えている様です。
しかし、2013年にチャベス大統領が死去して以降、独裁政権下での国家運営はもはや破綻寸前で、
政治活動や言論の自由さえもない暮らしに人々は疲弊しきっており 「電気も水もないが銃弾はある」
と言われる程治安が悪いとされてます。
もはや国家の体をなさない程だと言われているのですが・・・
詳しくは異形の国家が生き延びる理由 破綻国家ベネズエラの耐えがたい日常 をご覧ください。
いまや米国トランプ政権が本気で軍事介入しようとしているのは、
北朝鮮ではなくベネズエラだ! とも言われている程深刻な事態なのです。
そんなベネズエラで何故この様な音楽才能が開花したのでしょうか?!
彼らの活躍は別の意味でも世界が注目する大いなる不思議でもあるのです。
国家組織が運営する エル・システマ (El Sistema ) と呼ばれる音楽教育プログラムでは
すべて公的融資により賄われ、31万から37万の子どもたちを国中の音楽学校に通わせており、
学生の大半は貧困層の出であると言われています。
そんな環境で生まれ育った ドゥダメルは、トロンボーン奏者の父と声楽家の母の元で幼い頃から
音楽に親しみ、5歳の頃からこの エル・システマ で音楽教育を受け始めたと言う。
10歳でヴァイオリンを選択し、12歳のときにはコンサートマスターを務めていた地元の
ユース弦楽合奏団で指揮にも取り組むようになり、1996年には15歳で同楽団の音楽監督となった。
その後の勢いは留まる所を知らず、遂にこの新年には指揮者界の頂点に上り詰めたのでした。
全世界が注目した 2017年のウィーン・フィル 「ニューイヤー・コンサート」です。
ファンには最高のお年玉となったのは記憶に新しいところです。
そんなドゥダメルの新しい演奏が Youtube で見られるんです。
この3月に行われたベートーヴェン・チクルスの全曲です。
オケは彼の手兵であるベネズエラのシモン・ボリバル交響楽団
もちろん全員がエル・システマで育てられたまさにベネズエラ国立交響楽団です。
そんなドゥダメル、改めて驚くのはどうやら指揮する曲はすべて暗譜している模様で
これまで彼が譜面台を前にしているのを見た事がありません。
(指揮)グスターボ・ドゥダメル
(管弦楽)シモン・ボリバル交響楽団
(コンサート・マスター)アレハンドロ・カレーニョ
2017.3.12~15 スペイン・バルセロナにあるカタルーニャ音楽堂でのライブ映像です。
まさにベネズエラの奇跡!
どうぞまずはお好きな曲からお聴き下さい。
①チクルスⅠ 「エグモント」序曲、交響曲第一番ハ長調、序曲「コリオラン」、交響曲第二番ニ長調
②チクルスⅡ 交響曲第三番変ホ長調「英雄」、交響曲第四番変ロ長調
③チクルスⅢ 交響曲第五番ハ短調「運命」、交響曲第六番ヘ長調「田園」
④チクルスⅣ 交響曲第七番イ長調、交響曲第八番ヘ長調
⑤チクルスⅤ 交響曲第九番ニ短調「合唱付き」
さてさて どうでしょう。
ドイツ、オーストリアとは縁もゆかりもないラテンの若者たちが紡ぎ出すベートーヴェン。
まあ自分も異邦人なので感想は書きません(爆)
でもエル・システマが養成した個々人の技量とアンサンブルの見事さは我がN響も真っ青ですね。
今やこのエル・システマの思想は、日本を始めとする世界20カ国以上に広がりつつあるそうですよ。